TOMATOES🍅














夏の気配を感じる夕べのミントジュレップは、二度忘れられたあの詩人のことばを思い出さんとして過ぎてゆく。
きみ知るや 白百合を紅い薔薇にかえる法を
接吻せよ色白のガラテアに──顔赤らめて笑うべし
(フリードリヒ・フォン・ローガウ)
気づけば今宵の空にまんまるの孔を穿つ月を見上げていた。
ゼレーネよ、その美しき瑞光のなかで世界の幸福な暮夜を見守りたまえ。
大きな金色の月の外側の縁は、遠い陽の光を受けて、きらきらする細い輪のように、なお特別に輝いていました。同時にザンボの鋭い眼は、輪の内部に向かってしだいにぼやけてゆく形を認めました。それは弱い光しか当たっていませんが、彼女の見慣れた形です。しかし彼女の目はたえず、輝く輪にひきつけられました。おそらくもう千年も昔に亡びてしまった信仰の最後のなごりが、この少女の胸の中に、古い故郷からか、または死んだ母から伝えられ、なおおぼろにあらわれたのでしょう。おそらく彼女は、今日その祭壇の前に立った金色の女神に従う前に、我知らず今一度、忘れられた月の神(ゼレーネ)に向かったのでしょうか。とにかく保護を求めるように、彼女は月に向かって手を差し伸べました。/すると誰かが、この手をやさしくつかみました。それはドン・コレアで、彼は用心ぶかく近寄り、つかんだ手を黙っているようにというしるしに、彼女の口に当てました。それからほのかに輝く指輪を彼女の指にすべらせて、すばやく彼女の口にキスをし、来たときと同じように人目をしのんで立ち去りました。(ゴットフリート・ケラー『白百合を紅い薔薇に』(「世界の文学」第14巻)中央公論社, 1965, p. 189-190)