de54à24

pour tous et pour personne

雄鶏のパレード


今朝は病院があったのだが、体調が悪く外出困難が続いたために延滞しまくっていた図書館の本を返したくて、今日は予約時間よりずっと早く、朝7時を回った頃に大学へ向けて家を出た。キャンパスまでの道のりで大勢の人々とさわやかな気分を共有できるほど心身に余裕があるとは思えず、また昨晩眠る前にコップ二杯の水と飲み込んだ16錠と3袋の薬剤や、朝目覚めた瞬間から感じた肩や背中の痛みからもそれは明らかだった。

 

 早朝故に、キャンパスの周辺に来てもまだ人影もまばらだった。ここまで来ることができた安心感も手伝って、私がいつも使っている門が見えるころになると、ようやく暖まった大胸筋や僧帽筋も緩んできたのを感じた。自然、穿いている皮のブーツが刻む足音もより軽快に、より早くなった。はやくまたこのステップに復帰したいなぁ……と、下を向いていた顔を上げると、なにか自分に併走しているものの気配を感じた。もうすこし頭を上げて、左右を確認しようとしたとき、鶏がいた。併走していたのは、雄鶏だった。

 

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この街の鳥はなぜか突然に現れる。一月ほど前に某寺院の横を歩いていたときも、突如名前も知らぬやや大きめ(約1メートル程)の鳥と目があった。その鳥も、垣根の上をゆっくりと歩いていた。街の東側を流れる川沿いを歩けば、そこはいつも鳥たちの遊び場だし、第一、川の名前には魚ではなしに鳥の名前が付けられていてる。「ここでは古来より、人に化けた狸と天狗が、人間に紛れて暮らしていた」*1らしいから、この鳥たちも金曜倶楽部の鍋の具にでもなるのだろうか。いやはや。

 

ちなみに、今朝の雄鶏が悠々と朝の散歩を楽しんでいるのは、某学生寮の敷地である。カルチェラタン*2よろしくのこの学生寮は、バラ色のキャンパスライフの夢にのみ込まれてはループのうちに幽閉される「私」の神話の聖地だが、鶏だけではなく、大量のお猫さまはもちろん、ヤギやウサギ、エミューもいる。多分、私はよく知らないがほかにもいろんな動物が飼育されている。夕方キャンパスを歩いていると、そのへんの誰かが鳴いている声が聞こえる。そして、猫や犬を除く可食動物は、みないずれ屠殺される(リアルフライデークラブである)。つまり、寮生たちが食べるために飼育しているのだ。(寮生がヤギを散歩につれてきては図書館横の草を餌にするので、私の友人が大変怒っていた。彼はこの寮に対して一貫してアンチなのだ、もちろんヤギだけの問題ではなく。)なにがともあれ、明らかにここは小学校時代の飼育係が最大限に生かされている現場である───それもまた功罪というべきか。

 

文化的価値はさておき、この寮の存続自体にはかなり激しい賛否両論がある。さらに言えば、寮内の内部紛争もなかなか烈々たるものがあり、必然的にそこには無法地帯のような空気が漂っている。政治的な特色および歴史はもうひとつの某寮ほどは色濃くないためか、定期的に突然機動隊が入るようなこともないようだが、それにしても警察沙汰にもならず(なっているのかもしれないが)政治の季節よりはや半世紀以上の時を存続してきたということは、それだけで新たな憧憬を生み新しい入居希望者も後を絶たないようである。

 

風間俊 

「きみたちは保守党のおやじどものようだ。学生なら堂々と自己の心情を述べよ!」

「古くなったから壊すというなら、君たちの頭を打ち砕け!」

「古いものを壊すということは、過去の記憶を捨てることと同じじゃないのか!人が生きて死んでいった記憶をないがしろにするということじゃないのか!新しいものばかりに飛びついて、歴史を顧みないきみたちに、未来など、あるか!少数者の意見を聞こうとしないきみたちに、民主主義を語る資格はない!」

 

(「コクリコ坂から」より)

 

 

疲労というのは身体にも脳にも神経にも精神にも起こるらしいが、本当に疲れているとき、身体も脳も神経も精神も、すべて一緒くたになってしまいどれがどこの疲労なのかまったく判断がつかない。古いものを未来へ残すというのもまたそれと同じようなもので、なにかを残すということは、その良い点も悪い点も渾然としてよくわからないままにすべて引き受けて後世へ託していくということである。良し悪しは、その時々の恣意的な判断に過ぎないとしても、残したからにはより多くのひとを巻き込みながらなんらかのかたちでそれを引き受けなくてはならない。古い物を継承するということは、新しいものに飛びつくのと少なくとも同じ程度には、無責任な楽観によって支えられているように思われるのだった。

ともあれ今日は、そんな鶏から朝が始まった。

 

 

 

 

*1:アニメ「有頂天家族」より。

*2:映画「コクリコ坂から」より。